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第6回 「頑張ってね」と「頑張ってるね」

精神科の医師として使わない言葉の1つに「頑張ってね」があります。なぜなら、この言葉には“あなたはもっとやるべきである”という意味が含まれているからです。かつ主語がないので、何をすればよいかわかりません。うつ病患者に対して不用意にこの言葉を使うと「辛いのに、もうこれ以上できない。いったい何をすればよいのだ!」と絶望し、自殺の引き金になってしまうこともあります。

遺族外来でもこの言葉は使いません。なぜなら、死別という大きなストレスを受け、辛い思いをしている遺族にはゆったりとした時間が必要なので鞭打つような言葉は使わないのが原則であるためです。ですから、「頑張る」に関する言葉は遺族ケアにおいて使うべきでないと考え、自分の頭の中の単語帳から外していました。しかし、先日外来に通う遺族から「頑張る」という言葉に対し、「『頑張ってね』と言われると嫌な気持になるけど、『頑張ってる(・)ね』と言われると嬉しいですよ。」という話をもらったので、改めて「頑張ってね」と「頑張ってるね」の差について考えてみました。

まず、「頑張ってね」という言葉ですが、一見優しそうな響きがあります。しかし、よく考えてみると今まで行ってきた努力をねぎらう気持ちが込められておらず、かつ主語がないので、「私は何をやればよいか指示できないが、とにかくあなたはもっとするべきである」と不確実な命令の意味合いが含まれているので、遺族には「もうこれ以上出来ない。一体、何をすればよいのだ?」という否定的な気持が湧いてくるのだと思います。これに対して「頑張ってるね」は、“今まで本当によくやってきたし、今もよくやっている”と苦労をねぎらう気持ちが含まれており、かつ主語がないので、今までしてきた様々なことを認めてもらったという肯定的な気持が出てくるのでしょう。単語としてはたった一文字の差ですが、その意味するところは天と地ほどの開きがあります。改めて言葉の持つ意味の深さと力を知ることになりました。

葬儀の時のご遺族は周囲の人が放つ言葉に対しとても敏感になっています。不用意な一言で葬儀のイメージが大きく変わり、そのイメージが遺族の心の奥底にしみついて離れなくなってしまうこともあります。逆に、素晴らしい言葉でご遺族の気持ちを和らげることも可能です。ですから、遺族ケアに従事する皆様方には、発言に対しより細かいところまで注意することが求められています。言葉の持つ力をさらに意識しながら葬儀に従事することで、よりよい遺族ケアが可能になると信じています。

 

埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科 大西秀樹

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