ありがとうを言わせて
お葬式に関する情報をお伝えするラジオ番組『Heart&Life 〜ありがとうを言わせて〜』(ラジオNIKKEI第1 毎月第1・第3水曜日 16:55〜17:10に放送中)の制作に携わって、かれこれ二年半になります。様々なゲストにうかがうお葬式に纏わるお話は、何度収録に立ち会っても、毎回私の胸を熱くします。
この番組に携わらないかというお話を頂いたとき、「お葬式の大切さを改めて知ってほしい」という制作意図の説明を受けました。その言葉を聞いて頭に浮かんだのは、ある大切な仲間との別れの日の出来事でした。
…Kさんと出会ったのはもう十数年前のことです。当時、私が仲間内で撮っていたインディーズムービーに楽曲提供をしてくださった会社の社員だったその人は、20歳近く年下の私をいつしか仲間と呼んでくれるようになり、映画が完成した後も交流が続きました。しかし博識だったKさんと議論になって言い負かされるのを恐れていた当時の私は、Kさんに会う時はいつもどこか緊張していて、当たり障りのない会話しかしていなかったように思います。それでも、付き合いが長くなってきたある日、なぜかKさんと二人で朝まで飲むことになり、ようやく本音で話しをすることができました。浅はかな私の意見に嬉しそうに頷いてくれたKさんの顔は、今でも鮮明に思い出せます。
それからまもなくして、Kさんの会社の社長から連絡があり、Kさんが入院をして、闘病生活を送っていることを知りました。聞けば、どうやら長くかかりそうな病状です。しかし私は、弱ったKさんにどんな顔をして会い、どんな言葉をかけていいのか分からず、結局見舞いには行きませんでした。そして、会おうと思えばいつでも会いに行ける環境にいながら、最期まで会わないまま、Kさんが亡くなったことを知らされたのです。
慌てた私はKさんの葬儀の日程を尋ねました。しかし、すでに実家がなく、家族とも離れて暮らしていたKさんのお葬式は行われず、ごく少数の近親者だけが火葬場で見送るらしいという答えが返ってきたのです。当時は知らなかった言葉ですが、「直葬で送る」ということでした。このことに狼狽したのは、私だけではありません。いえ、私なんかよりももっと、深く長い付き合いをしてきた人たちが、友人を失った悲しみ以上にショックを受けていました。そこで、その代表者がKさんのご家族にお願いに出向き、幸いと言っていいのか、火葬場が一杯で一週間近い猶予があったこともあり、何とか火葬直前にお坊さんがお経をあげる間だけご一緒させていただく許可を得たのです。
真夏の太陽が照りつける火葬場に集まった友人は20人以上。私は、生きている内に会いに行くべきだったという後悔に苛まれながらも、Kさんに花を手向け、これまでの感謝を伝えることができました。
その帰り道のことです。Kさんの会社の社長が運転する車に揺られながら、誰もがKさんに想いを馳せている中で、助手席に座っていたHさんが突然、大きく息を吐いたのです。HさんはKさんの大学の先輩で、30年来の友人であり、仕事仲間でもあった方です。そのH さんが絞り出すような声で「写真ならいくらでもあったのに…」と言いました。急な訃報に地方から駆けつけ、また、どうやらKさんと疎遠になっていたらしいご家族は、直葬ということもあってか、遺影を用意していなかったのです。Hさんに言葉を返せる人はいませんでした…。
あの別れがなければ、お葬式の大切さを伝える番組制作に携わることは、きっとなかったと思います。もしかしたら、幼い日の印象だけで、お葬式は形式ばった煩わしい儀式だと思っていたかもしれません。しかし実際には、一目会って触れるだけで癒され、遺影と向き合うだけで納得できる心があるのです。
お葬式は最後に「ありがとう」を伝えるために欠かせないもの。私はそう信じています。
- 更新日時:2019年05月27日|カテゴリー:ブログ