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荼毘に付す

今年の4月に始まり、なんと一年間放送予定だという、

テレビ朝日開局60周年記念ドラマ『やすらぎの刻 〜道』。

平日お昼の時間帯の放送なので、録画をして、毎晩欠かさず観ています。

 

このドラマの舞台は、

芸能界の発展に尽力した人たちだけが入居できる老人ホーム「やすらぎの郷」。

その物語の設定と現実の世界が入り乱れ、

主演の石坂浩二さんを筆頭に、

日本の芸能史を彩ってきたベテラン俳優のみなさんが続々と出演しています。

私は現在母親と離れて暮らしていますが、

電話で話す際にいま最も盛り上がる、共通の話題となっています。

近年もの忘れが激しくなった母でも、

往年の大スターたちの名前はポンポンと飛び出します。

「あの人は昔ね…」と話し出す声は、まるで少女にでも戻ったかのよう。

母と同じように、このドラマから刺激を受けているシニア世代の視聴者の方、

きっと全国にたくさんいらっしゃることでしょう。

 

そんな素敵なドラマを生み出しているのは、あの名脚本家の倉本聰さんです。

石坂浩二さんが演じる主人公は、ヒット作を連発した脚本家という設定。

つまり明らかに倉本さんご本人がモデルなのだろうと感じる場面が、多々登場します。

現在の高齢者を取り巻くさまざまな問題が、

コミカル且つ真っ直ぐに描かれる、とても興味深いドラマとなっています。

 

実はこの作品、

2017年にも『やすらぎの郷』というタイトルで、半年間放送されていました。その続編が現在放送中の『やすらぎの刻 〜道』というわけです。

 

そして、ちょうどその前作の放送期間中、2017年の8月に、

私も携わっているラジオ番組『Heart & Life 〜ありがとうを言わせて〜』

(ラジオNIKKEI第1 毎月第1・第3水曜日 16:55〜17:10に放送中)

のスペシャルゲストとして、なんと倉本さんご本人にご登場いただいたのです。

そこでお話しいただいた、

地に足をつけた生きかたや死にざまについてのお考えは、

倉本さんがこれまで世に送り出してきた作品すべてに共通するテーマだと思いました。

もちろん今回の作品もそうです。

 

『やすらぎの刻 〜道』には主人公が密かに書いている新作の脚本という設定で、

劇中劇の『道』が登場します。

それは戦時中の、とある山奥の貧しい家族の話。

その大きな山場が描かれた8月の放送で、

「荼毘に付す(だびにふす)」という言葉が何度か登場しました。

「荼毘に付す」。

これまでなんとなく分かったようなふりをして聞き流していましたが、

改めて意味を調べてみると、「火葬する」ということ。

「荼毘」は「火葬」という意味だったんですね。

その起源は仏教に用いられた言語から来ているようなので、

厳密にいえば仏教徒が使う言葉なんだそうです。

 

戦時中で物がない時代。

ましてや山奥の貧しい家族が、自分たちの手で荼毘に付すのはひと苦労です。

しかし劇中では、皆が力を合わせ、時間をかけて家族や大切な人の遺体を焼き、

骨を拾う姿が丁寧に描かれていました。

 

「荼毘に付す」という言葉は近年、「火葬する」という事実だけでなく、

大切な人を想いを込めて見送るというような意味合いの言葉に変化しているようです。

誰の手でどのようにして「荼毘に付す」のか。

時代とともに変化する葬送の文化の中に残る言葉を、

もう一度見直さねばと思わされる、とても印象的なシーンでした。

  • 更新日時:2019年09月25日|カテゴリー:ブログ
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