第10回 「死別後早期の心の動き」
皆様は葬儀の際、さまざまな精神状態のご遺族をみてきたと思います。しかしながら、その状態には一定の法則があります。皆様がそれを知って対応することが皆様自身、そしてご遺族にとって有意義です。ですから今回はご遺族が死別後早期にどのような精神状態をたどるのか学びたいと思います。
私たちは自分にとって悪い知らせ(ここでは死別)を受けた場合、3つの段階を通ることがわかっています。
第1段階は衝撃の段階です。悪い知らせを受けた直後、衝撃で頭の中が真っ白になってしまいます。
第2段階は抑うつの段階です。衝撃がやや収まってくると現実がみえてきます。そうなると、今後のことが不安になり逆に気持ちが沈んできます。
第3段階は適応の段階です。悪い知らせを受け止め、現実的な対処ができるようになります。
第1段階は悪い知らせの後から1週間程度続き、第2段階がその後に1週間続きますから、私たちは悪い知らせを受けた場合、少なくとも2週間は判断力の落ちた状態が続くわけです。
次に、死別のストレスは、私達が経験するストレスの中で最も大きいものです。家族が死の訪れを予期していたり、大往生と捉えている場合は、死別の衝撃がある程度緩和されているかもしれませんが、最大のストレスであることは変わりありません。
皆様が出会う方々は死別経験をしたご遺族です。葬儀は死別後1週間以内に行われるのが普通ですから、ご遺族は最大のショックを受けた後で頭の中が真っ白になった状態にあるわけです。ですから、判断力が低下していても不思議ではありません。
このような状況下で葬儀を円滑に進めるため、皆様さまざまなノウハウをお持ちと思いますが、精神科医の立場から少し付け加えてお話ししたいと思います。
大切なことは、葬儀の際のご遺族は精神的なショック状態にあると認識しておくことです。
ショックのために判断力が落ち、何をしてよいかわからなくなっている場合もあると思います。その際には、プロとしてご遺族に対してわかりやすく対応するように心がけるべきです。言ったことが二転三転することもあると思いますが、これも判断力の低下ですから忍耐強く接するべきです。言ったことを覚えていないとしても不思議ではありません。ですから大事なことは書き留めて示すことも必要でしょう。
悲しみを表に出すこともなく、淡々と対応しているご遺族もあるかと思います。一見、気丈に見えるのですが、ショックのあまり悲しみを感じることのできない状態(これを失感情症と呼びます)になっている可能性があります。この場合も判断力が落ちているので注意が必要です。
辛い思いをしているご遺族には皆様の援助が欠かせません。本稿が少しでもお役に立てば幸いです。
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科 大西秀樹
- 更新日時:2018年02月14日|カテゴリー:遺族ケアの現場から