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第9回 「医学生に死を伝える」

大学病院に勤務しているので、医学生に講義もしています。といっても、医学生が学ぶ領域は膨大なので、私が専門としているがん患者さん、ご家族、ご遺族のこころのケアに関する問題を講義する機会は6年間で3回しかありません。1回の講義が90分ほどですから、270分ですべてを教え、かつ学生に理解してもらう必要があります。ですから、分かりやすく伝えなければなりません。

しかし、最初からがん患者さん、ご家族、ご遺族に関する講義をしても学生には伝わりません。なぜなら、医学生は死に接した機会が少ないので死のイメージが湧かないのです。また、彼らが学んでいることの多くは患者を救うためです。特に、亡くなった後のことをいきなり講義してもピンとこないでしょう。

ですから、6年の間で3回しかない講義の第1回目は「死を伝える」ことに全ての時間を割きます。内容としては、私が実際に受け持った患者さんの亡くなるまでの苦悩について話すことにしています。

話す内容は3つ。

1番目は、小さな子供の行く末を案じながら亡くなってゆく若いお母さん。「子供が小さいのです。助けてください。」と懇願する彼女にどう応えれば良いのか。

2番目は白血病で治療を行ったが、再発してしまった青年。亡くなる直前に「先生、ぼく頑張ったでしょ」という言葉にどう応えるのか。

そして最後は明日、子供の4歳の誕生日を迎える肺がん末期の父親。余命はおそらく1日。誕生日が命日になる可能性が大。「お願いだから、子供の誕生日を命日にしないで」という彼の切なる願いにどう対応するか。

授業が始まった時には、集中していない学生もいます。しかし、話が始まると教室はしんと静まり返り、学生たちが必死になって考えているのがひしひしと伝わってきます。目頭を押さえている学生もいます。話を聞くのは辛いかもしれません。しかし、もっとつらいのは生きたくても生きることができない患者さんなのです。ですから、「死」という現実を見つめる作業は大切です。

講義の後の感想はおおむね良好です。学生たちは感性が豊かです。死の厳粛さを伝えると、それを真摯に受け取ってくれます。きっと、命の大切さも理解してくれたと思います。

1年後、2回目の講義。遺族ケアの講義をします。1年間で様々な医学の勉強と経験を積み、生と死の重要性をさらに理解した学生たちは遺族ケアの重要性をすんなりと受け入れてくれます。もちろん、患者さん、ご家族のケアの重要性もしっかりと理解します。ここで学んだ知識は医師になった後も役に立つものとなるでしょう。

遺族ケアの重要性を理解するには、「死」の理解が欠かせません。それだけではありません。死を理解しないと、患者さん、そして命の理解が充実しないのです。ですから、医学生に「死を伝える」ことはとても大切なのです。

 

埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科 大西秀樹

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