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連載:仏教と葬送を考える──現代における霊

 現代において、死者の霊という話題は、なかなか受け入れがたいものがあります。
 低俗な話題ととらえる人もいれば、非科学的な話題ととらえる人もいます。場合によっては、いかがわしい話題だと捉える人もいます。「幽霊を見た」などと言うと、ちょっと変わった人だと思われかねません。
 ところが案外現代人は、霊と親しんでいます。
 お墓参りで手をあわせる時、多くの人は、そこに存在している人格的な何かに語りかけます。これは仏壇で手をあわせる時も同様です。
 霊という言葉は使いませんが、死んだ人が何らかの形で存在しているかのごとく感じている人が多いのです。そうした素朴な感覚は、日本人なら誰しも持っているものなのです。
 そもそも葬儀というものは、何のために行うのでしょうか。
 仏教の各宗派では、それぞれ独自の意味づけをしています。
 その多くは、亡くなった人をあの世に送る、ということが葬儀であるとしています。
 つまり亡くなった人というのは、もはや存在しないのではなく、何らかの形で存在していると考えられているのです。霊という言葉を使わない宗派もありますが、死んでも故人が何らかの形で存在していることは共通なのです。
 二〇一一年の東日本大震災では、実にたくさんの人が亡くなりました。
 実は、震災の後、被災地で幽霊に出会ったという人が実にたくさんいます。
 それはあまりにも多かったため、震災の幽霊話をテーマにした研究論文が社会学者や宗教学者によって次々と書かれたり、新聞やテレビで報道されたりしました。特に「NHKスペシャル 東日本大震災 亡き人との再会」はご覧になった人も多いと思います。
 ある時、仮設住宅に知り合いのおばあさんが訪ねてきて、茶飲み話しをして帰ったのですが、帰ってから気づいたのは、「あのばあさん、震災で亡くなったんじゃなかたっけ」ということ。でも、「ばあさん、物忘れがひどかったから、自分が死んだのも忘れてるのかもな」と、誰も恐がりもせず、疑問も持たなかったという話。
 タクシーの運転手が、女性を乗せて被災地方面に向かったのですが、しばらくして後部座席を見ると誰もいませんでした。運転手は、「きっと住み慣れた町に帰りたかったんだろう」と、誰も乗っていないタクシーを目的地まで走らせたという話。
 東北の震災では実にたくさんの命が失われました。どれも理不尽で、無念な死であります。この世への心残り、家族を残していく寂しさ、家族に会いたいという思いなど、たくさんの思いを想像せざるを得ません。
 一方、生き残った人も、やり切れなさ、申し訳なさ、悲しさ、寂しさなど、複雑で消化できない思いを抱えています。
 そうした思いが、人々に霊の姿を見せるのかもしれません。
 人は霊との対話を通して、慰霊の思いを表現しているとも言えるでしょう。また親しい人の霊との出会いを通して、安らぎを感じるという面もあるようにも思えます。
 霊を見るということは、単なる幻想かもしれません。しかしこんなに科学が発展した現代でも、霊を見たという話は無くなることはないのです。
 ほとんどの人は霊を見ることはありませんが、何となく死者がどこかにいることを前提に生活をしています。お墓や仏壇に語りかけるということは、まさにその現れであります。
 私は霊という存在を「くだらないもの」とかたづけてしまうことに、寂しさをかんじてしまいます。むしろ、理屈では語れない、霊のような存在を感じながら生きていく方に豊かさを感じるのです。霊の存在は、死者と生者の「いつまでも一緒にいたい」という思いの結晶であるとも思えるのです。

薄井 秀夫

薄井 秀夫(うすい ひでお)

プロフィール
昭和41年、群馬県生まれ。東北大学文学部(宗教学)卒業。
中外日報社等を経て、平成19年に株式会社寺院デザインを設立。
お寺のコンサルティング会社である寺院デザインでは、お寺の運営コンサルティング、運営相談を始め、永代供養墓の運営コンサルティング、お寺のエンディングサポート(生前契約、後見、身元引受等)、お寺のメディアのサポートなどを行っている。
葬式仏教や終活といった視点でお寺を再評価し、これからのお寺のあり方について提言していくため、現代社会と仏教に関心の高い僧侶らとともに「葬式仏教価値向上委員会」を組織して、寺院のあり方について議論を続けている。
また、お寺がおひとり様の弔いを支援する「弔い委任」を支援する日本弔い委任協会の代表も務めている。

  • 更新日時:2022年11月28日|カテゴリー:ブログ
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