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連載:仏教と葬送を考える──仏壇と仏教

仏壇のある家

 仏壇を持つ家が減り続けています。
 第一生命経済研究所による調査「宗教的信条としきたりの関連」(平成24年)では、仏壇が「ある」と答えた人は46.7パーセントでしたが、同じ調査で子どもの頃に仏壇が「あった」と答えた人は66.2パーセントでした。つまり一世代で、仏壇の保有率が約20パーセント下がっているということになります。
 また経済産業省の工業統計調査によると、宗教用具製造業の市場規模は、平成9年に約855億円あったものが、令和元年には約183億円にまで縮小しています。約20年で市場規模が4分の1程度になってしまっているのです。
 皆さんの身の回りでも、おそらく仏壇のある家は少なくなっているのではないでしょうか?
 仏壇の保有率が下がっているのには、いくつかの原因があります。
 ひとつは、現代人の住宅事情によります。現代では、マンション住まいの人が増えたり、一戸建てでも仏壇を置く余裕のない家が増えたりしていることが大きいでしょう。
 また核家族化が進み、祖父母、両親、子という三世代が同居する家が減っていることも大きな原因です。
 以前は、おじいちゃんやおばあちゃんが仏壇にお参りするのを見て、仏壇とともにある生活に親しんできましたが、核家族化が進むと、そういう光景を見る機会が減っていきます。以前は家庭の中で仏壇の大切さを学んできましたが、生活の中に仏壇が無いのが当たり前になって、それを学ぶ機会が無くなってきているのです。
 仏壇を持つ家が減っているのは、もちろん供養心が希薄になっていることもありますが、それ以上にこうした外的要因が大きいというのが現実です。

仏壇とは何か

 そもそも仏壇とはいったい何でしょうか。
 実は、仏壇とは何かという質問に対して、答えは二つあります。
 ひとつは、仏壇は、本尊(お釈迦様、阿弥陀様などの仏様)を祀り、その本尊に手を合わせるためのもの、という考え方です。
 もうひとつは、仏壇は、亡くなった家族や先祖を祀り、その先祖の魂に手を合わせるためのもの、という考え方です。
 読者の方々の中では、仏壇は先祖を祀るものと考えている人が多いんじゃないかと思います。おそらく日本人の大半は、こうした受け止め方をしているはずです。
 しかし、僧侶に質問すると、前者の考え方を説明する人が圧倒的に多いのです。というのも、どの宗派でも公式見解としては、仏壇は本尊を祀るもの、という考え方をしているからです。
 このズレは、日本の仏教のあり方を象徴しています。
 一般的には、仏教とは、釈迦や祖師方の説いた教えをもとにした宗教であると考えられていますが、現実の仏教は先祖供養などの葬送が中心で、教えに関心を持つ人はあまり多くはありません。
 こうした現実に対して、日本の仏教は堕落している、と考える向きもあるようですが、仏教が葬送に関わること自体は何も悪いことではありません。むしろ、死への不安を感じている人々に対して、救いや安らぎをもたらしているのが、こうした葬送であります。仏教は、葬送を通して死と向き合うことを教えてくれているのです。

故人の幸せを祈る

 一般的に仏壇のある家では、どのようにお参りがなされているのでしょうか。
 仏壇の前に座って、扉を開け、ロウソクに火を灯し、線香に火をつけて、リンをならす。手を合わせて、亡くなった家族に思いを馳せる。時には花を供えたり、お菓子を供えたりまします。また故人の好きだった食べ物を供えることもあります。
 花を供えるのも、お菓子を供えるのも、みな、本尊ではなく故人に供えているというのがほとんどです。
 そして手を合わせる時、亡くなった家族に思いを馳せ、あの世で安らかであって欲しい、いつも見守ってくれてありがとうね、などという気持ちを込めます。
 時には、遺された家族がいつまでも幸せでいられますように、などとお願いをすることもあるでしょう。
 もちろん手を合わせたからといって、あの世での安らぎも、この世での幸せも、保証されているわけではありません。それでも多くの人は、そうなることを願って、仏壇に手を合わせ続けているのです。

故人を想うことが私たちにもたらすもの

 結局のところ、故人の幸せを祈り、故人に私たちを見守ってくださいと祈ることそのものが、安らかな気持ちをもたらしているのではないでしょうか。
 私は、こうした日本仏教の信仰は、素朴だけれども、実にすばらしい信仰だと思っています。むしろこうした信仰こそが、日本の仏教だと行っても過言ではありません。
 乱暴ないい方をすれば、仏教の信仰を持つのに、仏教の教義を知っている必要は無いのです。現代では宗教をあまりにも理念的に考えすぎているように思います。理念的過ぎることが、生活から宗教を遠ざけているのではないでしょうか。
 宗教はもっと身近で、わかりやすいものだったはずです。日々の生活の中で、仏壇の前で手を合わせるということこそが、仏教徒にとって最も大切なことなのではないでしょうか。そしてそうした素朴な信仰生活が私たちに安らぎを与えてくれるのだと思います。
 仏壇の保有率が減り続けているのは、住宅事情や家族のあり方を考えると、やむを得ないところがあります。ただ仏壇がもたらす素朴で安らかな信仰生活が失われていくのは、とても残念なことだと思うのです。

薄井 秀夫

薄井 秀夫(うすい ひでお)

プロフィール
昭和41年、群馬県生まれ。東北大学文学部(宗教学)卒業。
中外日報社等を経て、平成19年に株式会社寺院デザインを設立。
お寺のコンサルティング会社である寺院デザインでは、お寺の運営コンサルティング、運営相談を始め、永代供養墓の運営コンサルティング、お寺のエンディングサポート(生前契約、後見、身元引受等)、お寺のメディアのサポートなどを行っている。
葬式仏教や終活といった視点でお寺を再評価し、これからのお寺のあり方について提言していくため、現代社会と仏教に関心の高い僧侶らとともに「葬式仏教価値向上委員会」を組織して、寺院のあり方について議論を続けている。
また、お寺がおひとり様の弔いを支援する「弔い委任」を支援する日本弔い委任協会の代表も務めている。

  • 更新日時:2022年12月23日|カテゴリー:ブログ
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