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連載:仏教と葬送を考える──日本人に信仰心はあるのか?

世界で最下位と世界で1位という結果

 「世界価値観調査」という国際調査があります。世界77ヶ国が参加し、共通の質問が各国でなされ、価値観の比較をするというものです。ちなみに日本では電通総研が主体となって調査をしています。
 仕事、ジェンダー、戦争など、様々なテーマでの調査が行われていますが、その中には、宗教に関する価値観の調査も行われています。
 2020年に行った第7回「世界価値観調査」(電通総研・同志社大学)によると、「自分は信心深いか」という質問に対して、「信心深い」と答えた日本人は14.4%であり、実に77ヶ国中最下位という結果でした。
 国際的な比較を行う価値観調査には、もうひとつ「国際社会調査プログラム」というものがあります。日本ではNHK放送文化研究所が調査し、世界33ヶ国が参加する国際調査です。
 こちらにも宗教に関する設問がいくつか用意されており、そのなかに「祖先の霊的な力はあると思いますか」という設問があります。
 「絶対ある」「たぶんあると思う」「たぶんないと思う」「決してない」の4択の設問ですが、日本での調査で「絶対ある」「たぶんあると思う」を足した合計は63.0%でした(2008年調査)。
 そしてこの日本の63.0%という数字は、調査をした33ヶ国中、最も高い数字を示していたのです。

信仰心と供養心

 どちらも国際的には権威ある調査です。その調査の宗教心に関わる設問で、一方では最下位、もう一方では1位という結果が示されたということです。矛盾するようですが、これを聞いて納得した人も多いのではないかと思います。
 この結果は日本人の信仰というものを、象徴的に示しています
 両方とも宗教心を問う質問ですが、その中身は、一方は信仰心、もう一方は供養心に関わる問いです。
 日本では「信仰を持っていますか」「信心がありますか」と聞かれたら、新宗教やキリスト教に入信している人で無いかぎり、「いいえ」と答える人がほとんどです。お寺の檀家になっていても、神社の氏子になっていても、普通は「信仰があります」とは答えません。
 こうした日本人に対して、「信仰心が無い」「宗教を知らない」などと嘆く人も多いようです。
 しかし私は、こうした主張をする人こそ、宗教を知らないのでは無いかと思います。
 日本人は、宗教的なことに全く興味が無いわけでは無く、お墓や仏壇へのお参りを何の疑問も無く行いますし、現在でも葬儀の約9割は仏教でなされています。まして死者に手を合わせない人はいないと思います。
 実に宗教的な生活を続けていて、特に先祖供養に関わることは、とても熱心です。日本人にとって当たり前すぎるため、自分のことを、あえて「信仰心がある」と言う必要がないのです。
 それが前述の先祖供養に関する調査で、世界第1位になるという結果に出ているのだと思います。

信仰心の無い日本人?

 また現代日本における「宗教」という言葉が、かなりエスタブリッシュな理解に限定されていることにも原因があると思います。
 宗教というのは、釈迦やキリストなど偉大な宗教者が説いた教えにもとづくものであると考える人が多いようです。宗教を信じている人はそうした教えを学ぶため、毎週のようにお寺や教会に通っている、というイメージが強いようです。
 欧米では、多くの人がキリスト教徒で、教えを理解し、宗教施設に通っているけれど、日本人の自分たちは墓参りはするけど、教えのことは何も知らない、と感じている人がほとんどだと思います。
 そうしたキリスト教に対するイメージも幻想です。
 別にキリスト教でも、教えを深く理解し、定期的に教会に通う人はさほど多くはありません。大多数の人は、日常的に宗教のことを思い出すこともありません。
 その意味では、欧米の人も日本人も、同じような信仰生活を送っているのです。
 また現代の日本人にとっては、「宗教」=「教え」という印象が強く、その「教え」を知らないがゆえに、自分に信仰が無いと考えがちです。
 確かにほとんどの日本人は、宗教の教えをほとんど知りません。興味すら無い人がほとんどです。しかし、お墓の前に行けば手を合わせますし、仏壇の前に行けば手をあわせます。
 ここで強く言いたいのは、お墓に手を合わせるということは、決して教えを学ぶことに劣っているわけではないということです。

先祖への思いは世界一

 どうも日本では、宗教を語る人が知識人であることが多く、そうした人たちは、教えを重視し、先祖供養を程度の低いものと見なす傾向があります。
 そうした考え方が日本人に浸透していったため、冒頭のような、不思議な調査結果が示されることになるのだと思います。
 調査は、先祖に対する思いは世界一であることを示しています。墓参りも、仏壇へのお参りも、葬式も法事も、日本人にとってのすばらしい信仰生活であります。
 こうした素朴な宗教心を大切にしていくことこそが、これからの時代に求められることでは無いかと思います。

薄井 秀夫

薄井 秀夫(うすい ひでお)

プロフィール
昭和41年、群馬県生まれ。東北大学文学部(宗教学)卒業。
中外日報社等を経て、平成19年に株式会社寺院デザインを設立。
お寺のコンサルティング会社である寺院デザインでは、お寺の運営コンサルティング、運営相談を始め、永代供養墓の運営コンサルティング、お寺のエンディングサポート(生前契約、後見、身元引受等)、お寺のメディアのサポートなどを行っている。
葬式仏教や終活といった視点でお寺を再評価し、これからのお寺のあり方について提言していくため、現代社会と仏教に関心の高い僧侶らとともに「葬式仏教価値向上委員会」を組織して、寺院のあり方について議論を続けている。
また、お寺がおひとり様の弔いを支援する「弔い委任」を支援する日本弔い委任協会の代表も務めている。

  • 更新日時:2023年04月28日|カテゴリー:ブログ
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