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連載:仏教と葬送を考える──再びお盆の話

壮大な仏教の世界観、素朴な葬式仏教の世界観

 葬式仏教には、いわゆる仏教の世界観とは異なる宗教世界があります。
 仏教の教義的な宗教世界は、実に壮大な世界です。お経ごとに様々な物語や世界観が広がり、複雑かつ緻密なことも特徴です。
 それに対して葬式仏教の宗教世界は、素朴で、感覚的な世界です。日本の風土から生まれた宗教世界と言ってもいいと思います。
 この葬式仏教の宗教世界をもっともよく表しているものに、お盆があります。お盆の期間、家庭で行われる営みは、まさに死者との交流の物語となっています。お盆の数日間、亡くなった人があの世から帰ってきて私たちといっしょに暮らすという物語です。
 毎年八月のお盆休みになると、新幹線も高速道路も激しく混雑します。都会で暮らす人ほど故郷への思いが強いのだろうか、大半が都会から故郷に帰る人です。お盆を単なる夏休みだと捉えている人もいるかもしれないが、故郷で亡くなった先祖と暮らす季節としての存在感は未だ衰えていないのです。

故人を迎え、故人を送る

 お盆の習慣は、地域によって若干の違いはあるものの、大きな流れは全国どこへ行っても共通しています。
 盆の入り(八月十三日のことが多い)の夕方に、家々の玄関先で、オガラに火をつけた迎え火を焚くことからお盆は始まります。地域によっては、お墓の前で焚くところもあるようだ。オガラというのは、麻の茎を乾燥させたもので、この時期になるとスーパーや花屋さんの店先に並べて売られています。これも地域によって異なり、藁であったり、白樺の皮であったりするところもあるようです。
 この迎え火、亡くなった人の霊を迎えるもので、煙を目印にして家に帰ってきてもらうとか、煙に乗って帰って来てもらうとか、いろんな説の由来があるようです。お墓で焚く場合は、その後提灯に火を灯して、家族が家まで案内して連れて帰ってくるというのが一般的です。
 家では、仏壇の前に精霊棚をしつらえて、先祖が帰ってくるのを待ちます。精霊棚のお供えには、さいの目に切ったナス、キュウリ、ニンジンを、水で研いだお米に混ぜた「水の子」など、お盆特有のものが少なくありません。
 キュウリに割り箸の脚をさした精霊馬も、お盆らしいお供え物です。馬に乗って早く帰って来て欲しいとの思いがこめられています。
 それからの数日間は、先祖と一緒に過ごす時間です。お供えをして、日々、精霊棚や仏壇にお参りしつつ、故人の存在を身近に感じながら過ごすことになります。
 盆の明けである十六日の夕方、今度は送り火を焚いて先祖の霊を見送ります。この時、精霊棚には、お帰りになる先祖の乗り物として、ナスに割り箸をさした牛をつくって置いておきます。こうして、先祖とともに過ごしたお盆が終わるのです。
 ちなみに京都の夏の風物詩である五山の送り火や、長崎で行われる精霊流しは、お盆に戻ってきた先祖を送るためのもので、家庭で行われている送り火と同じものです。

日本人が暮らす素朴で豊かな宗教世界

 お盆の習慣は、次第に簡略化されつつあるものの、現代でも無くなることはないようです。お盆に亡くなった人の霊を迎えて数日間過ごすという感覚は、今もって日本人の心の中に深く刻み込まれています。
 私は東京に住んでいますが、七月のお盆の時期になると(東京のお盆は七月)、迎え火や送り火を焚く風景を必ず見ることができます。どこからともなく煙が漂ってきたのを見て、「そうか、もうお盆か」と気づくこともあります。都会でも、未だこうした習慣は廃れていません。
 亡くなった人を迎える、ということは、こちらの世界で生きている人にとって、幸せなことです。故人とふれあい、故人と会話をして、故人に見守ってもらう。日本人はみな、故人とつながっていたいのです。それが葬式仏教の原点であるのだと思います。
 死者と向きあうという習慣は、現代でも無くなることはありません。現代の日本人には確固たる死生観が無い、と物知り顔で言う人が少なくありませんが、そうした人は、葬式仏教が描く素朴な宗教世界のことを、どこか程度の低いものと考えているのでしょう。
 しかしこの宗教世界は、素朴ではありますが、実に豊かで、死者への優しさに満ちた宗教世界です。日本人は、いまだ豊かな死生観の中で生活しているのだと思います。

薄井 秀夫

薄井 秀夫(うすい ひでお)

プロフィール
昭和41年、群馬県生まれ。東北大学文学部(宗教学)卒業。
中外日報社等を経て、平成19年に株式会社寺院デザインを設立。
お寺のコンサルティング会社である寺院デザインでは、お寺の運営コンサルティング、運営相談を始め、永代供養墓の運営コンサルティング、お寺のエンディングサポート(生前契約、後見、身元引受等)、お寺のメディアのサポートなどを行っている。
葬式仏教や終活といった視点でお寺を再評価し、これからのお寺のあり方について提言していくため、現代社会と仏教に関心の高い僧侶らとともに「葬式仏教価値向上委員会」を組織して、寺院のあり方について議論を続けている。
また、お寺がおひとり様の弔いを支援する「弔い委任」を支援する日本弔い委任協会の代表も務めている。

  • 更新日時:2023年08月1日|カテゴリー:ブログ
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